今日は授業がないので朝はのんびりできる。そう思いながら半分に割ったベーグルをトースターに乗せた。この食堂のトースターは針金製のベルトコンベアを持ち、その上下の電熱線でパンを焼く仕組みになっている。ガワは元々平らだったであろうステンレスの板で構成されていて、とても直線的な印象を受ける。横から見るとつるかめ算の図に似て、正方形の角から小さな四角を削り取ったような形をしている。ただし四角は長方形ではなく、直角を持つ台形をひっくり返したものだ。正面から見ると横長の穴が二つあり、少し引っ込んだ位置にある上の穴からパンを入れてコンベアに乗せ、電熱線を経て落ちてきたパンを下から取り出ようにできている。下の穴がやや縦に大きいのはパンを取り出しやすいようにという配慮なのだろう。ならば上の穴が引っ込んだ位置に口を開けているのはパンを入れやすいようにという配慮に違いない。この穴の右側に、プラスティックの黒いダイアルが二つと白いスイッチがひとつ付いている。刻印は禿げたのか元々無いのか分からないが、多分温度・速度・主電源だろう。上下の穴の間には、Savoryと刻印されたプレートがネジ留めされている。メーカーの名前だと思う。小麦か大麦か分からないが、とにかく麦のマークも一緒に描かれている。トースターだから小麦だろう。パンを焼くんだし。一目で古いと分かるのは直線的なデザインからか、素材からか、それともやっぱりガワの歪みからか。熱のためか、外装のステンレス板は少々歪んでいるのだ。これはこれで可愛らしく見えるし、同時に多少歪んでも大丈夫という頼もしさも表しているように見えないでもない。しかし、そういえばこのトースターは時々パンを燃やすのだ。多分なかなかパンが焼けずにいらいらした誰かがダイアルをいじるからだろうけれど。熱と言えば、常時接続常時稼働のこのトースターは頭からかげろうを立ち上らせている。南向きの窓辺に置いてあるので、床に影がくっきりと写るのだ。まだ秋だが、冬の朝はいっそうくっきりするのだろう。これもまた季節を感じさせる風景のひとつだが、季語にするには簡潔な表現がなさそうだ。それ以前にそもそもこんなのはそんなに一般的な光景じゃないな。

がたりとがさりの中間のような音を立ててベーグルがトースター下部の受け皿に落ちた。焼けたようなので側に置いてあるクリームチーズの皿を押さえつつ、ナイフで適量とる。このトースターの側には楕円形のステンレス皿に入ったバター、ピーナッツバター、クリームチーズ、時々ジャムが置かれているのだ。
今日はジャムはないようだ。いつもと同様、バターの減りが最も多く、次いでピーナッツバター、そしてクリームチーズという順だ。きっとみんなピーナッツバター・トーストサンドウィッチを作るのだろう。
従って食べたことは無いけれどジャムはブルーベリーに違いない。日頃から直射日光の降り注ぐこんな場所、それもトースターの側にこんな要冷蔵の三、四品目を置いとくものではないと思うけれど、今のところ幸いお腹を壊したことはない。味は多少悪くなっているかも知れないが、元々そんなに期待はしていない。ベーグルもクリームチーズも市販品なので、どちらにせよ食堂職員の悲惨な朝食よりはよっぽどおいしい。

クリームチーズを塗る際に手に取るベーグルの熱さで、その日のベーグルの出来は分かる。今日は熱くて痛いのでよく焼けたようだ。この程度の温度なら火傷はしない。跡が残らないと分かっているので、なら大した事はないなと結構我慢できるものだ。クリームチーズの分量は大切だ。決して少なすぎてはならない。アクセントとなる味のないベーグルほど退屈なものはないからだ。決して多すぎてもならない。中心の穴や横からはみ出るクリームチーズほど無様なものもまたないからだ。ましてそれが口の周りや手に付くとなれば、その無様さは推して知るべしである。

穴と言えば、ベーグルとドーナッツの穴の作り方は異なる。ベーグルの穴は細長い円柱を環状に丸めることで出来上がるのに対し、ドーナツの穴は平たい円柱の中心をくりぬくことで出来上がるのだ。従ってドーナツにはマンチキンと呼ばれる団子状の副産物がある。これはくりぬかれた余剰部分をドーナツと同様に調理したものだ。全国のダンキン、及びミスタードーナッツはこれによって二次的な収入を作り出しているに違いない。100の材料で100の商品を作り110で売るよりも、80と20の材料で同量の商品を作り、96と24で売った方がが割安に見えるからだ。